「ゆっくりでも一歩ずつ」 ~東日本大震災から1年の取材で~ 平成24年4月1日号
病を患いながら、折り紙の創作や普及に努める枚方市の折り紙作家・桃谷好英さん(83歳)と、妻の澄子さん(80歳)を2月5日付の朝刊で紹介しました。
実は、当初はこうした記事になる予定ではありませんでした。
記者は最初、病気のことは知らず、長年、独自の折り紙を考案している好英さんを、「こんなすごい人がいる」と紹介しようと考えていたのです。取材の中で、好英さんが昨年3月に脳梗塞で入院し、目が悪くなったうえ、歩行も不自由になったと聞きました。
しかし、澄子さんから「あまり人に言っていないから、病気のことは記事に書かないで」と頼まれました。私も、望まれないことをするつもりはなく、いったん了承して帰りました。
ところが、原稿を書き始めても、どうも、うまくまとまりません。
好英さんが、2万種以上の折り方を考え、海外からも高い評価を受けているなど、「すごい」要素はたくさんありました。
しかし、ただ「すごい」と書くだけでいいのか、という疑問が湧いて来たのです。夫の折り紙の素晴らしさを熱心に語り、夫を気遣って、取材に必要な資料を自分から取りに行ってくれた澄子さんの姿が浮かびました。「好英さんのことは、夫を支え続ける澄子さんの存在なしには語れない」と気付きました。
病気を2人で乗り越えて今があることを、ありのままに書く方が、読む人の心に響く。そう考え直しました。2人に私の考えを説明し、改めて取材をして書いたのが今回の記事です。
56年の結婚生活を振り返ってもらうと、澄子さんは「夫の独創的な折り紙が世界で一番。そして私自身、夫の世界一の理解者だとも思う」と照れ笑い。好英さんも「新しい折り方を思いついた喜びを分かち合える人がいるから、続けられた」と感慨深そうでした。
仲むつまじい様子がほほ笑ましく、「うらやましいです」と伝えると、澄子さんは涙ぐんで、「ありがとう」と一言。きっと、いろいろなことがあった人生を思い返しての涙だったのでしょう。折り紙作品に囲まれながら、見つめ合う2人の姿に、心が温まりました。
読売新聞枚方支局 中田 敦之(平成23年10月1日~)