波間の嘆き ー海の生き物は訴えるー
割れた氷の上に乗っかって白熊君は不安げに空を見上げていました。体に似合わない小さい目もしょぼしょぼと、氷といっしょにどこかに流されていきました。北極の氷が砕けたことを一番に喜んだのは企業家たちです。あらわになった海面に基地を造り早速石油の採掘に乗り出しました。また別の海では放射能が海に混ざったのです。魚たちはいつものように泳いでいましたが近頃どうも体の調子が変だとささやき合っています。また別の海では遠い海の珍しい魚が網にかかりました。水温の変化に惑わされて自分の故郷が分からなくなってしまったのです。また別の所では、ドンガラドンガラものすごい機械の音がします。何千メートルという海底の岩を超長い錐が穴をあけていきます。先端産業に欠かせない珍しい鉱石を取り出そうというのです。このように、海の上では人間たちがほくほくと喜んでいる時、海の中は爆撃を受けたような騒ぎです。
人間の欲望は地球の大きさをしのぎ、その賢さには神さますら驚きです。このまま地球の開発競争が続くと、やがて海の中に大工業地帯が現れるでしょう。そうなれば海の生き物は大変です。泳げる魚はまだしも、不器用な貝やなまこやウニやたこは?ひたすら岩にしがみつき砂にもぐりこみ弱者の運命を待つばかり。 さて、わが親愛なるさざえ君のことも大変気になります。
今月の一枚「海の詩」
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文・作品 津嶋 晴秋
つしま造形教室主宰 陶芸家・画家
筆者略歴 S13年生まれ。星田村(現・交野市星田)で幼少期を過ごす。大手前高卒、慶應義塾大中退。大病を機に50歳で陶芸を始める。陶芸・絵画等の個展4回。現在交野で、つしま造形教室を主宰。
TEL 072-891-9489