「ともに暮らす社会」〜精神障害者の人形劇団の願い〜
枚方市の就労支援施設などに通う精神障害者で作る人形劇団「やなぎ」が、各地で公演活動を続けています。統合失調症などの症状を抱える約10人がメンバーで、「心の病を抱える人のことをもっと理解してほしい」との願いを込め、小学校や公民館、地域のイベントなどを回っています。
週1回の練習日の7月9日、枚方市内の練習場を訪ねました。この日は、団員9人が童話「おおきなかぶ」などの練習をしていました。「セリフはもっとリズム感を持って。元気に声出して」。劇団ができた1991年から、ずっとボランティアで指導している的場勝子さん(73歳枚方市)のアドバイスで、メンバーは熱心に人形を操ります。
統合失調症と自閉症の症状があり、施設に通う男性(27歳)は「劇をやり始め、人としゃべるのがイヤじゃなくなってきた」と言います。引っ込み思案で人との会話が苦手でしたが、人前に立ち、観客から拍手をされ、自信がついたそうです。
男性は今では施設の作業のサブリーダーで、他の利用者に手順を教える立場。「次はリーダーに立候補するつもり。早く就職したい」と前向きです。ずっと劇団を見てきた施設職員の新川滋子さん(68歳)も「見違えるほど変わった。劇を通じ、メンバーの心の成長を感じる」と喜びます。
統合失調症を抱える別のメンバーの男性(56歳)は「人形劇で人前に立つと、自分が磨かれていってる気がする。生きがいみたいになってきて、楽しい」と話してくれました。
精神障害者というと、「よく分からない」というイメージがあるかもしれません。しかし、接してみれば分かることですが、笑ったり悩んだりする姿は、健常者と何も変わりません。「やなぎ」には、本番でアドリブのセリフを言って観客を笑わせるメンバーもいるそうです。
劇団員の願いは、「障害があってもなくても、みんなが一緒に生きていける社会になること」。障害を持つ人たちが、生きづらさを感じることのない世の中にするにはどうすればいいのか、考え続けることが大切だと感じました。
読売新聞枚方支局 中田 敦之(平成23年10月1日~)